自分は何者だ?

僕は小さい頃から集団行動が苦手で、みんなが普通にできるようなことができなかった。早くから自分は普通の人と同じ人生は歩めないと思っていたし、歩むつもりもなかった。

そんななんで、「みんなと一緒に同じことをやっていれば大丈夫」という当時あった思想的な安全圏(幻だったけど)の外で生きなきゃいけないとコンプレックスに心を痛めながら思ったものだ。必然的かどうかはわからないけど、そのせいで「自分は何者なのか」という問いが常に自分の中にはあった。人と違うからこそ、それがわからないと、僕は幸せに生きていくことができないと内心思っていたからだ。

アメリカに滞在していた数年間でいろんな国の人と会い、思想や生き方の多様性を学び、「みんな違ってていいんだ、大丈夫なんだ」とわかってからは、鬱屈した感情は晴れ、一気に自由になれた。しかしそのことでなおさら「自分は何者なのか」という問いの答えを求め、考え続けていた。


そんな中で、こんな言葉に感銘を覚えた。

「自然が美しいのではなく、自然を見た人が美しいと感じるだけだ」

「親切な人がいるのではなく、親切を受け入れる人のほうが親切だ」


どちらも素晴らしい言葉で、それを突き詰めて考えていくと、だんだんわかってきた。

例えば僕はコーラが好きなんだけど、コーラがおいしいのではなく、僕がコーラをおいしく感じるだけだ。人によってはまずいと感じる人もいるだろう。それでもコーラはコーラなのだ。
それとは逆に僕はビールがまずくて飲めない。しかし世界の大多数の人はビールを最高にうまいと感じているようだ。それもビールがうまいわけでもまずいわけでもなく、人がうまいと感じ、僕がまずいと感じるだけだ。

海が青いのではなく、見た人が青いと感じるだけだ。色覚が違う生き物が見れば、海はグレーかもしれない。窓から心地いいそよ風が吹いてくるわけではなく、僕がそよ風を心地いいと感じているだけだ。氷点下の世界に住むペンギンには、熱風が吹いてきたと感じるかもしれない。僕が見て、感じている風景と、別の人、別の生き物が見て、感じている風景がすべて一致するなんてあり得ない。

「やさしくて思いやりがある人」と言われたり、「自分勝手で自己中心的な人」と言われたり、頭がいいと言われたり悪いと言われたり、楽観的だと言われたり悲観的だと言われたり、僕も同じようにいろんな人からいろんな評価をされてきた。でもそれはその人たちがただそう感じただけのこと。それだけのことだ。それが僕というわけではない。


そう考えてくと、最終的に

「自分は何者でもない」

ということに気づいた。


「自分は何者なのか」を考えていった末に「自分は何者でもない」という答えはなんだかなと思ったけど、「自分が何者であるかなんて単なる幻想なんだ」とわかったら、かなり気分的に自由になれた。

自分は何者でもないし、何者になる必要もないし、何者になることもできないのだ。僕は僕に、あなたはあなたにしかなれない。

自分はただの一人の人間だ。そう自分をニュートラルに考えると、目の前の視界が急に晴れ、世界が広くなったような気がした。言い方を変えると、目の前には真っ白なキャンバスがあって、どう色を塗ることもできると、はたと気がついた。


人は生きる過程で多くの「肩書き」を持つ。僕の場合はデザイナーであり、男であり、日本人であり、30代であり、夫であり、父であり、友人であり、同年代であり先輩であり後輩である。その肩書きと世間的な「何者であるべき」という固定概念の複雑な絡まりで、自分を見失うようなことはもうやめだ。

そして人が決める「いい人」に自分を同化させる努力はいらないし、人が決める「ダメな人」に自分が当てはまっていないか過度に心配する必要もない。僕は一人の人間。何者でもない人間が何者になる意味も必要もない。


何者になる必要がなければ、あとは自分の心に素直になるだけだ。心が反応したものを選ぶ。心が反応した場所に旅に出る。心が反応した人と付き合う。心に従って生きれば、行動力があるとかないとか、ポジティブかネガティブかなんていう基準に悩むことはない。メディアが作る流行に無用に惑わされることもない。


折しも世界は集団から個の時代にシフトし、そしてワーキングスタイルも業界やプロとアマの基準など、どんどんファジーになっていく中、この発想に自分なりにたどり着けたのは、けっこうな収穫だったと思っている。そして自分の中に築き上げていた「何者」という幻想的なボーダーがいかに自分の生き方を制限していたか今更ながら気づき、これからはそのボーダーをいかに取り払っていくかが大切だと思った。


朝起きたら、そこに毎日何者でもない自分がいる。その日をどう感じ、どう考え、どう生きるかは、すべて自由なのだ。


おしまい!


この記事のエンディングソングは、ENIGMAの「Return to Innocent」です(笑) みんなInnocentにもの考え、生きていこうじゃないか。


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